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大賞
「さよなら302号室」
あいお様[のりおくれたソフィ、]
Interview
あいお様に、今作品の誕生したきっかけや装丁の考え方、
発行までのスケジュールをお伺いします!
まずは、今回のご本を作るきっかけを教えてください。
元々はグレーの色紙に特色の赤を刷ろうと思っていたのですが、
緑陽社の窓口の方から「色が沈んでしまうかも」とアドバイスをいただきまして、
一度配色を練り直しました。
その際に「色くらべ(※注)」の色見本帖をおすすめいただいたのですが、
ピンクの色紙に刷られた特色のローズと藤の色味がすごく綺麗で……
「これなら沈んだ画にはならないだろう!」と思い、
その2色に蛍光オレンジを加えて、画面を組み立て直しました。
本の内容も「夕日」がキーモチーフになっているので、
夕焼けの雰囲気が本全体から出るように、やりたいグラデーション表現を
全部載せしてみました。
副次的に「甘くて切ない」感じや「温度」を表現できた気がして、とても満足しています。
注釈)「色くらべ」は色上質紙12種類に特色インキ24色とCMYKインキを印刷した色見本帳です。 https://paperlabo.jp/labossample/603/
使用された加工とその加工を選んだ理由があればおしえてください。
表紙に使用した紙は「ハンマートーンGA(ばら)170kg」で、白の箔押し加工と、
寸足らず製本をしています。
遊び紙は「アストロブライト-FS(オレンジ)」で、
寸足らず加工したところから見えるようになっています。
表2-3も特色印刷をしていて、蛍光オレンジを使っています。
本文は「色上質(桃)厚口」を使用していて、特色1色刷りです。
本全体がピンクの立体物のようになれば嬉しいなと思い、
表紙と本文の紙色はなるべく近くなるようにしました。
特にこだわった部分は、随所に使用したグラデーション表現です。
その中でも、表2-3の小口とノドにスプレーを吹きかけたような版を作ったことで、
ピンクの色紙に蛍光オレンジが反射して色が混じり合ったような
効果が出たのはとても気に入っています。
アストロブライトの遊び紙と表2の反射光も美しくできて、同じく満足です。
表紙の3色のグラデーションは、初めは数値上で色の濃度を調整していたのですが、
薄く見えてバランスが悪く見える部分があったので、納得いくまで目で調節しました。
また、本文の擬似小口染めもグラデーションにしています。
少しやりすぎかも…?と思うくらいグラデーション表現を盛り込みました(笑)
紙の地色にインクが影響されるので、どんなイメージになるかを考えるのが
難しくて楽しかったです。
今回のご本はどのようなスケジュールで進められましたか?
4月頃から原稿を描き始め、半分ほど出来上がってから、装丁に本格的に取り掛かりました。
今回は加工盛り盛りの装丁にすると決めていたので、
以前トマトの装丁でお世話になった緑陽社さんにお願いすることにしました。
8月に見積もりをお願いして、1ヶ月かけてどういう装丁にするかを
窓口の方とやりとりしました。
最終的に、表紙入稿は9月、本文入稿は11月中旬で、12月初旬に納品いただきました。
今回のご本のような装丁で同人誌を作ってみたい!とお考えの方に向けて
メッセージをお願いします。
絞った色数でも、紙地を生かしたり、インクの濃度を調整したり、掛け合わせたり……
色々と工夫して使うことで、単純なCMYKよりも豊かな表現が出来ることもあるなあ、
と改めて思いました。
その分試行錯誤は必要ですが、困った時は色見本を眺めると
いいアイデアが生まれるかもしれません!
興味がありましたら是非挑戦してみてください。
最後にひとことお願いします!
この度は、このような栄えある賞をいただき大変嬉しく感じております。
窓口の方にはたくさんのご提案とアドバイスをいただいたのですが、
終始フラットに会話ができて、非常に楽しくて勉強になりました。
お忙しい中、疑問や質問に丁寧にお応えいただき、本当にありがとうございました!
こちらの本が、誰かの素敵な作品が生まれるきっかけのひとつになれたら嬉しいです。
Staff Comment
紙とインキの特性を考え抜き、装丁によって描きたい情景を際立たせる…まさに「本フェチ」にふさわしい一冊です。
エンボスの手触りが優しい「ハンマートーンGA」のばら色の紙地を最大限に活かした、
ふじ・蛍光オレンジ・特色ローズ(DIC558)の3色刷のグラデーションは見事の一言です。
切ないタイトルの白箔は、つけペンで書き付けたような質感を与え、多色刷りに更なる奥行きを加えています。
寸足らず表紙から覗く目に眩しいアストロブライトの遊び紙、夕日の残光がさりげない表2-3印刷、
「色上質 桃」に特色ローズ(DIC558)で印刷された甘やかな読み心地の本文…読んで味わう余韻がたまりません。
見て触ってめくって置いて眺めて楽しむ…「本」の魅力が余すところなく刷りこまれた作品です。
▼ 第11回 受賞作品 ▼