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アイディア賞
「青なんて知らない」
嘉賀 千晃様[1-pen]

第13回アイディア賞
青が深く、美しく広がる、新しい小口染めの魅力。
グラデーションの織りなす変化が心を惹きつける一作

仕様
【表紙】 用紙:新・星物語 パウダー 150kg/印刷:2色刷り(あさぎ、シルバー)
【扉】 オペラホワイトウルトラ80kg/印刷:1色刷り(ブルーブラック)/巻末
【遊び紙】 用紙:サイダートレペ遊び紙
【本文】 用紙:クリーム書籍用紙 72.5kg/印刷:1色刷り(ナイトブルー DIC-255)
【製本】 無線とじ

Interview

嘉賀様に、今作品の誕生したきっかけや装丁の考え方、
発行までのスケジュールをお伺いします!

今回のご本が生まれたきっかけは何でしょうか?

本作で登場するキャラクターの過去編が大好きで、学生時代の彼のイメージになぞらえた本を
作りたいと思ったのがきっかけです。

『青い春』という言葉が、本作にメインで登場するキャラクターの学生時代を象徴する重要なキーワードの一つに挙げられます。
加えて、キャラクターのイメージカラーが青系統ということもあり、本作は「青」をテーマに
設定しました。

また発行準備を進める中で、「せっかく同人誌として形にするならば……」と思い立ち、
紙の本だからこそできる仕掛けを入れることにしました。

使用された紙・加工と、特にこだわりを持った部分があれば教えてください。

●装丁のテーマ
全体的に「青」をテーマに作成しました。
この物語は「青春ってなんだ?」という問いから始まります。
物語が進むにつれて前述の問いの答えを知ることになるので、青(春)に気づいていく過程を
装丁でも表現したく、巻頭から巻末にかけて青色の使い方を工夫しました。


●表紙について
登場するキャラのイメージに合わせて、表紙はシンプルに白・あさぎ・銀の3色でまとめました。
表紙の用紙には、新・星物語 パウダーを採用しました。銀片が混ぜられており、光に当てると
上品にきらめく用紙です。
キャラの容姿は白い髪が特徴的で、日光にあたると光を透かして美しいだろうというイメージ
からこの紙にしました。

あさぎとシルバーの2色刷りのため、原稿に使用するインクの濃度を調整することで、
グラデーションの部分を表現しました。

タイトルは物語の結末に大きく関わるポイントでもあるので、
オモテ表紙に大きく配置しています。
インパクトを持たせるために、一部に箔押しの銀を使用しました。
完成後の実物を見ると、本の角度によって光の反射度合いが違うので、
眺めるたび違った印象になって趣深いです。

また、こだわりとして、タイトルの「青」という漢字は、
あえて青背景+白抜きの文字にしました。
「青(春)」を知る物語ということから、物語冒頭のキャラが青(春)を知らない状態を、
青色がない=漢字の「青」が白抜きにされているデザインで表現しました。

●本文について
遊び紙には扉が透けて見えるように、トレペ遊び紙を使用しています。
本編にラムネが出てくることと、物語の舞台設定の海辺の街から海中の泡をイメージして
サイダー柄の用紙を選定しました。

本作は本文に枠をつけることで、擬似小口染をしています。
表紙のこだわりと同じく「青(春)を知る」という物語の流れを、段々と小口の青がはっきりと見えるようになるという装丁の変化で表現しました。
章が進むごとに擬似小口のための枠の青色が濃くなるように原稿を作成しました。

本文で一番こだわったところは、最終章の章扉です。最終章の章扉に書かれた章タイトルは、
完全な章タイトルではありません。
章扉の表ページと裏ページで印刷の内容を変えることで、光にページ単体をかざしたときに
裏の文字が透けて、本当の章タイトルが見えるようにしました。
目線より下に本を置いて読むことが多いと思いますが、普通に読んでいる時にはその仕掛けに
気がつきにくいように、模様を印刷した遊び紙風のページを入れています。
(遊び紙風のページがないと、用紙の色で常に透けているような状態になってしまうため)
「え!?そんな仕掛けが!?」ともう一度読み返したくなる本になればいいなと思い、
後書きでこの仕掛けを明かしています。

個人的に、本作のメインキャラクターにとって、青春時代は宝物のように光り輝く大切な時間だったと解釈しています。
そのため、「青春」という文字が含まれる最終章の章タイトルは「光を使って何かできないか?」というところから光に文字を透かす仕組みを着想しました。
手元の本を光源にかざすにつれてじんわりと文字が透けていく仕掛けは、
完成物を見た時に自分の本ながらとても感動しました。

●製本・そのほか
フェアを使って本文の末尾に扉絵を入れました。
キャラクターの右手が描かれているのですが、読者が両手で本を持つと、
キャラと手を重ねているようになります。

今回のご本はどのようなスケジュールで進められましたか?

2023年12月半ばのイベント合わせで発行しました。
物語自体は長い間ネタを練っていましたが、実際に本づくりに向けて動き始めたのはイベントの二ヶ月ほど前です。

11月初旬〜 本文の組版担当者との打ち合わせ/本文執筆開始
(透かしの仕掛けやグラデーション擬似小口染のため、本文デザインをどうするかなどを随時打ち合わせしました)
11月初旬 緑陽社様の見積もり取得
11月下旬 入稿
12月半ば 緑陽社様より納品

今回のご本のような装丁で同人誌を作ってみたい!とお考えの方に向けて
メッセージをお願いします。

「こういう装丁にしたいな!」と思った時に印刷所の方や、デザイナーさんなどに
なるべく早く相談することが大事だと思います。
その加工ができるかどうかは〆切や予算も絡んでくるので、早めに相談することで
思い描いた加工が実現する可能性が高くなります。
私も予算とやりたいことのバランスがとれるよう、相談しながら原稿を進めていました。
緑陽社様はユーザーの要望を聞いたうえで、真摯に相談にのってくださるので、
とても頼りになりました。

また、加工を使われる際にはぜひ一度各フェアや割引のページを一巡することを
お勧めいたします。
時期やテーマに合わせて面白い割引を実施されているので、
予算の中でいろんな加工を組み合わせられるかもしれません。
本作を発刊した際も、予算オーバーで使えないと思っていた加工がありましたが、
早割とフェアを組み合わせることにより予算内で使えるようになりました。

最後にひとことお願いします!

この度はアイデア賞を頂戴し、大変に光栄に存じます。
大好きなカップリングの本で受賞できたことが何よりも嬉しいです。
緑陽社様はいつか使ってみたいと思っていた憧れの印刷所で、
本作が出来上がって緑陽社様から届けていただいた時も感無量だったのですが、
今回の受賞でさらに思い出深い本となりました。

本フェチ大賞はかねてから様々な加工の参考にさせていただいていたので、
そこに本作が名を連ねるのは未だ実感がありませんが、
どなた様かの新しい本の参考になれば幸いです。

最後になりましたが、本作の作成にあたりお世話になった皆様方に厚く御礼申し上げます。

Staff Comment

本作の装丁における大きな魅力は、ページの小口に施された青色のグラデーションにあります。

こちらは「擬似小口染め」という、本文の断ち切り付近にベタ枠を入れて、
インキの色を横からうっすらと見せる装丁なのですが、
この擬似小口染めの使い方が秀逸です。
本の断ち切りに近い部分に添えられた青色は重なり合うことで、横から見ると
美しい青のグラデーションを描き出します。
一見、本文にたくさんの色を使っているように見えますが、本文のインキは「DIC-255」の
インキ1色のみ。ベタ枠の濃度を変えることで、階調を作り出す驚きのアイディアです!
表紙は清涼感あふれるあさぎ色とシルバーを基調とし、タイトル部分には銀色の箔押しと
白い文字が交互に配置されており、洗練された雰囲気を醸し出しています。

柔らかな色の流れが装丁を飾り、サイダートレペの遊び紙が作品の繊細さを際立たせ、
手に取る度にその魅力に引き込まれます。
さらに、本文の柱やページのラストにもとっておきの仕掛けが。
物語を最後まで読むことで、隠されていた本当のタイトルにたどり着くことができます。
手に取りページをめくる、紙が透ける、といった紙の本ならではのギミックにあふれた一冊に
心からの賞賛とともにアイディア賞をお贈りいたします。

▼ 第13回 受賞作品 ▼


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